生命をはぐくむ色彩 シュタイナー教育からの学び
臼田 さかえ(著)
色彩には、私たちの無意識に働きかけ、生き生きとさせてくれる力があります。そのような色彩の力を、描きつつ自分に作用させることができるのが、ここに示した3原色6色のパステル画です。
これは写生ではありません。ちぎった脱脂綿でパステルをこすり取り、赤、青、黄色の色彩をハガキの上に広げ色同士を混ぜ合わせて色遊びしているうちに偶然生まれた色や形、ぼんやりとした記憶の情景です。
本書では、芸術、教育、医療、三分野が重なる領域で色彩の可能性を追い、仲間と共に「共同の学び」として描くパステル画の事例を取り上げ、その意義を探ります。
著者の教え子であった小菅昌子氏が、「響き合う色」の3原色6色のパステル画法を開発したもので、その経緯も本書に書かれています。
「一人の男の子(中学生)が濡らした紙に水彩の色を置いた時、さっとにじんで色が広がったのを見て、「怖い!」と口走って離れて行きました。その瞬間、「この子にとっては、流動する画面が怖いのだ。素材を変えよう!」と、綿で描くパステル画を思い浮かべたそうです。小さい画面で疲れないから、ここの子どもたちでも完成できるだろう、と。」(P68)
「技法書の発刊を最初に提案したのは中本千鶴子氏でした。」(P69)
「2001年4月、「響き合う色」という書名で二人の共著としてアトリエ・ルピナスから発刊されました。精神の障害を抱える若者の働く場を作るためにと、小菅氏が開所したデザイン事務所の最初の出版物となったのです。
その直後、「でも、本当のシュタイナー教育は水彩なのよね」と、訳知り顔で誰かが言ったという話を伝え聞いた私は、この技法書の英語版とドイツ語版を作ることを提案し、すぐに自分でドイツ語への翻訳を開始しました。なぜなら、三原色の水彩画の真髄は、色彩による魂の解放であり、それをとても簡単な素材で体験できるこのパステル画法に、私は新たな絵画教育の可能性を直感していたからです。本質を理解せず、ただ舶来のブランドをありがたがる輩に、私の憤りを感じていました。そもそも教育には決められた「型」があるわけではありません。ただ教師が目の前の子どもにとって「今、これこそが必要だ」と思うものを、自らの意思に基づいて自由に行うことが、その子どもにとっての本物の教育足り得るのです。人種民族が異なり歴史文化の違う環境の中で、いかにして本質を伝えていけるのか、それこそがヴァルドルフ教育を学んだ者の責務なのだと、シュトゥットガルト教員養成時代の恩師Dr.クラーニッヒ氏が熱く語っていた言葉を思い出しながら私は翻訳作業を進めました。
▲もしも今あなたが、去年と同じ授業をしているのならそれは退歩です。日々成長する子どもたちは、たとえ学年は同じでも去年より進化した存在です。授業内容が変容することこそ、魂の糧となる生きた授業といえるのです▲
」(P70)
Dr.クラーニッヒ氏の言葉と同じようなことが、シュタイナー教育・教員養成講座に書かれています。響き合う色は、海外でよく売れているらしく、日本で開発されたこの技法が世界に広がっているようです。
目次
はじめに
序 芸術とは何か
第1章 綿で描く三原色6色のパステル画
第2章 「共同の学び」としてのパステル画
第3章 理論的背景
シュタイナー教育とゲーテの色彩論
第4章 社会に広がる色彩
色を通して「私」に出会い、「世界」と出合う
第5章 未来へ
芸術・教育・医療をつなぐ色彩の力
Tweet
[ご注文]
生命をはぐくむ色彩 シュタイナー教育からの学び
1,980円(税込)